10年来の友達と距離を置く

10年来の友達と距離を置くことに決めた。彼とは中学生の頃に知り合って、同じ高校に進学して時々同じクラスになったりして、大学は別々のところに進んだけれど毎月会ったり電話で話したりする、そういう関係だった。

 

「この子と一緒にいるときって実は楽しくないんじゃないか」という疑問は一年以上前に芽を出していて、けれど長年の友人は大事にすべきという根拠のない信条が彼と距離を置く決断をすることを妨げていた。友達を作るのが苦手なタイプであることもあり、友達を失うことに対する恐怖も大きかったのかもしれない。それでも一度生まれた違和感は徐々に無視できないものに育っていった。決定的だったのは、年上のお姉さんに「本当に縁のある人とは一度離れたあとでもまたつながるよ」と言われたことと、同い年の外国人の友達に「toxic friendsと一緒にいる必要はない」と断言されたことだった(toxic friendsって日本語にどう訳したらいいんだろ)。

 

人間関係の整理、みたいなものはほとんどしたことがなくて、これが初めての経験だった。幼稚園から中学校まで一貫の学校に通って、昔からみんな友達でずっと一緒にいるのが当たり前という環境にいたのがその理由なのかもしれない。距離を置くと決めたときは緊張したし不安でもあったけれど、一緒にいて惨めな気持ちになる友達と一緒にいる必要はないということがやっとちゃんと身をもって理解できた、と思う。

 

今思えば私と彼の関係は全然フェアじゃなかった。おそらく彼は私のことを自分のケアテイカーにしたかったのだと思う。待ち合わせの時間に毎回遅れても決して怒らず、一緒にご飯を食べるときはお店と注文するメニューを決めてくれて店員さんに注文してくれて、遊びに行くときは行き先を決め交通手段を調べてくれて、真夜中に電話しても応答してくれる、そういう人間を求めていたんだろう。私が私だから友達でいたのではなくて、都合のいいケアテイカーになってくれる手近な人間が私だったから人付き合いを続けていただけだ。

 

なぜ彼のケアテイカーであり続けてしまったのか本当に自分でも分からないし心底自分のことが情けなくなるけれど、大学に入ってからの私はずっとメンタルの調子がガタガタで、だから自分が他人の面倒を見て「この人には私が必要だ」と思うことで自分の存在価値を保証したかったのかもしれない。おまけに自分に自信がなかったから、彼の行動に疑問や反感を抱くことがあってもそのたびに「私の心が狭いせいでこんなことを考えるんだ、もっと大人になって他人を気遣えるようにならなきゃダメだ」とか思って、彼に意見することすらしなかった。人と喧嘩するのはエネルギーがいるし疲れるから、それだったら自分が我慢しようという考えもあった。

 

でも本当はずっと嫌だった。待ち合わせするたびに待たされるのも、食事する場所や遊びに行く場所を決めるのを全部丸投げされて全く手伝ってくれないことも、電話で長々愚痴を聞くのも、楽しくなかったし人間として尊重されてない感じがずっとあった。おまけに一緒に出掛けるときはいつも私が彼の機嫌を取らなければいけないような気がして疲れたし、私は話すとき絶対に相手の気持ちを傷つけないように気をつけるのに彼はそういうことを一度もしなくて何度も傷つくことを言われたのも嫌だった。友達と会うためにわざわざ出かけていって、疲れ切って家に帰ってくるのも嫌だった。

 

彼の行動が嫌だったのと同じくらい、自分のことも嫌だった。私は彼とただ対等な、お互いに助け合える成熟した健全な友達になりたかっただけだった。それなのに意見することもせず、自分がしなくてよかったはずのことを何年もやり続けた。自分の信条や感情に反することにあまりにも長い時間を浪費してしまった。彼が時々放つ「ごめんね」と「大好き」という言葉に何年も騙されて、「この人は私のことを好きでいてくれるし感謝もしてくれる!」みたいな本当にバカげた思い違いに動かされていた(実際彼はごめんねといっただけでありがとうと言ったわけではないのに私の脳みそは都合よく誤解した)。大好きって言葉にほだされてたなんて本当に死にたくなるレベルで自分が恥ずかしいし、過去に戻れるなら今すぐ過去の自分をひっぱたいて目を覚ませ!って言いに行きたい。

 

散々なことを書いてきたけれど、彼も昔はすごくいい子だった。いつもニコニコしていてみんなに好かれていた。けれど大学に入ってから何に対してかは分からないけれど不足感を持つようになって、性格が暗くなったし生活リズムも昼夜逆転して、他者に救いを求めるようになっていったんだと思う。同じように私は大学入学以降メンタルに不調をきたし、自分を頼ってくる人の面倒をみることで私は人の役に立ってるし生きてていいんだ!みたいな気持ちを抱いてしまっていた。

 

メンタルの不調とtoxic friendsとの相性は悲しいくらいばっちりだ。自信とか、自分の存在意義とかそういうものがぐらぐらに揺らいでいるときにtoxic friendsとのズブズブ不健全生活という底なしの沼に落ちる羽目になるリスクは大きい。

 

楽しい経験ではなかったけれど、これからはちゃんと自分の望まないことを求められたときは私はこれはやりたくない、って言ったりなんでこれをしてほしいの?って聞いてみたりしようと思うし、一緒にいて惨めな気分になったり自分の人生がその人によって悪い方向に引っ張られると分かったりしたらなるべく早く離れるようにしたい。自尊心を守ることの方がtoxic friendsと一緒に居続けることより何百倍も大事だ。